COLUMN
コラム
飲む前や過ぎたる時に五苓散(ごれいさん) 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)足すも良し
飲みすぎて『頭が痛い』『次の日辛い』そんな経験ありませんか?
前回は、五苓散(ゴレイサン)が気圧変動、特に気圧低下時の頭痛に効果的とのお話でした。今回は、「二日酔い・悪酔い対策の漢方薬」として、前回出てきた五苓散に加え、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウのお話です。
Coptis Detoxificating Decoction, Huang-Lian-Jie-Dug-Tang (英語表記はKAIM (Kampo, Acupuncture and Integrative Medicine)誌のVolume 1,Special Edition(2005年)参照)
五苓散について
まずは、前回話した五苓散の補足です。
五苓散は、
沢瀉(タクシャ)
朮(ジュツ、【注1】)
茯苓(ブクリョウ)
猪苓(チョレイ)
桂皮(ケイヒ)
の5生薬から成る方剤です。
(【注1】実は、日本の医療用漢方生薬の朮には白(ビャク)朮と蒼(ソウ)朮があり、各製薬会社で異なりプロは使い分けています。今回は総称名の「朮」を使います。後日詳細を説明します。)
前回示した、五苓散の英語表記Poria with five ingredientsのPoriaは茯苓のことで、five ingredientsは5生薬からなる方剤の意味です。つまり「茯苓を主とする5生薬からなる方剤」の事です。
実は、KAIM誌では、Poria Powder with Five Herbsなのですが、茯苓はマツホド(松塊)というサルノコシカケ科の菌類で厳密にはハーブではありませんので、私は国際会議での会話ではPoria with five ingredientsを使っています。
2026年第111回薬剤師国家試験には茯苓が菌類由来であることを知らないと解答できない問題が出ています(薬学部の学生さん、これ読んでよかったですね)。
米国カルフォルニア州のCalifornia Acupuncture Board資格試験(日本でいう、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(いわゆる、あはき師)に相当)の出題基準表では、五苓散はFive- Ingredient Powder with Poriaの表記になっています(【注2】)。
(【注2】これらの英語表記に関しては、伝統医学の国際標準化の動きと密接にかかわりますので、後日説明機会があればと思います。)
茯苓以外の生薬のうち、沢瀉、朮、猪苓はいずれも利水作用があります(【注3】)。(また、桂皮は温めて気と血の巡りを良くする働きがあります(【注4】)。
(【注3】今は利水=利尿と考えてください。)
(【注4】気は英語ではQi(Ki) :vital energy, 血はそのままBloodと訳されています。これらも、【注2】の伝統医学の国際標準化の説明の時にお話しできたらと思います。)
二日酔い・悪酔い対策としての五苓散
話しを「二日酔い・悪酔い対策の漢方薬」に戻します。五苓散はむくみ(医学的には浮腫)、口渇、嘔吐、下痢、排尿困難などのいわゆる水毒(すいどく)に効果があります。前回取り上げた気圧変動時の頭痛にも処方されます。これらの症状は、「口渇があるが、下肢はむくんでいる」という体内の水の偏在が原因とされています。五苓散は体内での水の分布を均等にする効果があるとされています。二日酔いの状態に典型的な上記の諸症状に効果があります。
黄連解毒湯について
もうひとつの方剤:黄連解毒湯の構成生薬は、
黄連(オウレン)
黄芩(オウゴン)
黄柏(オウバク)
山梔子(サンシシ)
の4つです。
黄連解毒湯の英語表記Coptis Detoxificating DecoctionのCoptisは黄連のことで、Detoxificatingは解毒、Decoction は湯液の事です。つまり「黄連を主とする解毒湯」の事です。
ここで解毒とは、化学物質や毒素を分解・排出するという現代医学でいうデトックスの意味ではなく、熱や炎症を鎮めることを指していると思われます。血管透過性亢進による発疹や出血に対する方剤の意味でしょう。
二日酔いによる胃の不快感や緩和に黄連解毒湯
黄連解毒湯は、熱による炎症を抑えるのに用いられ、一般的に、のぼせ、赤ら顔、アトピー性皮膚炎などの改善のために処方され、胃腸などの消化器系の炎症も抑えるとされ、二日酔いによる胃の不快感や頭痛などの緩和に効果的と思われます。なお、黄芩を含むため、長期的な連用は間質性肺炎を起こすリスクが高まりますので注意が必要です。
経験例
典型的な経験例としては、下記のようなものがあります。
50歳台男性。170cm,65kg。
初診:X年6月Y日。
主訴:アルコールを飲むと頭痛が起こる。
現病歴:5年前より片頭痛あり。頭痛の前に、右眼周囲にチカチカする感じの前兆がある。右側頭部や右眼の奥の鈍痛がある。ひどくなると嘔気、嘔吐を催すほど。鈍痛は数時間続く。飲酒の1時間後に頭痛をきたす音が多い。食欲は普通で、睡眠は良好。便通:1日1回。普通便。小便:5回程度/日。足の冷えを自覚する。口渇なく、体が火照る感じがする(体温は平熱)。
東洋医学的診断: 脈:弦滑。舌:淡。舌苔白。湿潤。水湿内停(体内に湿がとどまり)・三焦湿熱(体中に炎症性滲出や水分の吸収・排泄障害がある)
処方: 五苓散料(EKT-17)12錠/日+黄連解毒湯(NC-15)4C/日を服用開始。飲酒する数時間前に1回内服。飲酒後、頭痛はなかったが食後に内服。
1週間継続し、調子がいいので内服をしばらくやめていたが、2週後に飲酒後に熱いシャワーを顔に浴びたら頭痛が出現した。シャワーを浴びるときはぬるめにするように指導。
再び内服開始した。再開時より2週間継続した。頭痛は消失しているので、五苓散料(EKT-17)のみの継続とし、以後再発を認めていない。
表題の狂歌について
最後に、表題の狂歌「飲む前や過ぎたる時に五苓散、黄連解毒湯足すも良し」の解説です。
お酒を飲む前でも、飲みすぎたときでも、五苓散および黄連解毒湯が効きますという意味です。解毒湯という『景岳全書』での黄連解毒湯の呼び方を用いて、もう少し情報を盛り込みたかったのですが、二剤の方剤名をそのまま入れたため川柳にできず狂歌になりました(笑)。
今回は、飲酒による頭痛・二日酔いと漢方薬のお話でした。気になる方は、是非一度ご相談ください。